日本画家 近藤幸夫 「真理への探求」

2012年ロシア 「荘厳なる自然」展覧会レポート

2012年10月、日本とロシアの国境を越え、自然保護と文化交流に寄与することを目的に、 福田俊司氏の写真と私の絵画作品による展覧会「荘厳なる自然」展を開催しました。

荘厳なる自然

会期:2012年10月5日~26日
会場:ロシア、サンクトペテルブルク市、スモーリヌイ・サボール(大聖堂)
主催:ロシア・インターナショナルアカデミー・オブ・アート
後援:在ロシア・サンクトペテルブルク日本国総領事館 ニコン・ロシア

◆ 会場に展示した最も大きな作品で、高さが2mを超え、横幅が約5mの水墨画「波動」 (ロシア展では「Tunami」)には、自然への畏敬と人間への優しさについて書いた文章を 添えました。(新潟日報に連載したエッセイをロシア語に翻訳) 2011年3月11日に起きた 東日本大震災はロシアの人たちの心に深く刻まれており、災害の報道記事に関する意見や 被災地の現状への質問が数多く寄せられました。

◆ 日本画の岩絵具の原石や膠(にかわ)、筆、銀箔などを作品とともに展示しました。 画材が自然の素材から作られることに多くの人が興味を抱いていました。岩絵具の質感を 感じてもらうため、一部の作品を触れられるようにしました。礼拝に訪れた眼の不自由な 老婦人に介助の女性が「波動」の解説記事を読んでいたので、私から絵に触れられることを 伝えたのですが、遠慮しているようでした。その時、突然近くにいた少年がその人の手を 取り絵に触らせ、二人は画面の中に何かを探すように歩きました。彼女は心も手も幸せに なったと言うと、少年も満足そうに微笑みました。

◆ 大聖堂の天井は高い所で50メートルを超え、自然光と大型のスポットライトにより 作品が厳かに映し出される素晴らしい展覧会場でした。メディア説明会には50人以上の 記者が集り、展覧会の目的を理解してもらうことができました。期間中にはたくさんの 学校の生徒が授業の一環として展覧会を訪れてくれました。

◆ 滞在中、インターナショナルスクールの日本人学級と政府の新たな試みで運営される 児童養育施設ホープビレッジを訪問し、特別授業を行いました。ここには実の親のいない 子どもたちが暮らしています。私が日本画の説明に用いた「峠の星」は光が透過屈折する 岩絵具の性質を応用した作品で、夜空に輝く星を一つ見つけた後で周りのたくさんの星に 気付くように、見る角度や位置で一つの星から幾つもの星が見えます。描いた星の意味は 希望や夢、そして、人でもあると話しました。悲しみや挫折を経験してきた子どもたちは 作品をどう受け止めるのか心配でした。私の前に集った子どもの一人が絵の星を指差して 「それは僕だ」と声を上げました。そして、次々に「これは私」と絵に語りかけるように 言いました。屈託ない透きとおるような表情に、胸が熱くなりました。この子どもたちに 巡り会えたことに、私は心から感謝しました。

◆ 名誉博士号

展覧会開催に際し、ロシア,ファンダメンタルスタディ 国際大学、オックスフォード教育ネットワーク(英国) カリフォルニア大学(米国)から、哲学名誉博士号を 授与されました。

◆ 国境を越えて

展覧会の準備から約2年にわたり、ロシア、チェチェン、 グルジア、イラン、ネパール、スリランカ、アフリカ 諸国など、時に対立することのある宗教や民族の中で、 一緒に仕事ができたことは貴重な体験でした。芸術を 通し互いに理解し合えることを確信できました。

ロシアを訪れて以来、すべてにわたり私を支援してくれているスルタン・アバエフ氏に、 彼の家族に、友人たちに、心から感謝します。 最後に、この展覧会に協力と支援をして頂いた人たち、遥々展覧会に来て頂いた皆様に お礼申し上げます。
 

2013年2月11日

近藤 幸夫